富士登山

1998年の8月の後半にチベットに行くことになっていたのですが、一つ気になることがありました。それは高山病です。高所では、気圧が下がるため空気が薄くなり、それに応じて空気に含まれている酸素の量も減ります。体がそのような環境の変化に順応することができずにいくつかの特徴的な症状が出現した場合は、高山病と診断されます。ちなみに、チベットのラサの標高は3660m。症状が出現する標高やその高さに慣れるまでに要する時間には個人差があり、同じ人でもその時の体調によって異なります。通常、標高2500mくらいから発症する可能性があります。
症状としては、下記の3段階に分けられます。
(1)山酔い
標高2000m(高齢者は1500m)以上の高地で、頭痛に加えて次の症状が少なくとも1つ以上ある場合です。
食欲低下、悪心・嘔吐などの消化器症状
全身倦怠感や脱力感
立ちくらみやめまい
眠れない、息苦しい、何度も目が覚めるなどの睡眠障害。
(2)高所肺水腫
山酔いと合併することがほとんどですが、数時間で急速に進行することもあります。安静時の呼吸困難、せき、歩行困難、胸部圧迫感(胸を締めつけられるような感じ)、頻脈(脈が速い)といった症状が現れます。
(3)高所脳浮腫
命に関わる重篤な状態です。山酔いに加え、運動失調(まっすぐ歩けない)。見当識障害(日時や場所がわからなくなる)がみられ、放置した場合、昏睡からやがて死に至ります。
治療法としては特効薬もなく、速やかに下山するしかありません。しかし、飛行機でチベットに入る場合、下山とは、乗ってきた飛行機で引き返すことを意味します。時々そういう人いるんです。理想的なチベットへの行き方は、徐々に標高を上げて十分に高度順化することですが、しがないサラリーマンの夏休みではそんな時間的な余裕はありません。チベット以外でも、ネパールのエベレスト方面のトレッキングツアーでは、標高が上がるたびに予備日や滞在日を設けて高度順化を図っています。
大金をかけて高峰に登山する登山家は、国内で低酸素・低気圧ルームに入ってトレーニングしたりしますが、一般人には縁ない話です。でも、気になることは気になるので、日本で気軽に高山病を体験する方法として富士登山をすることにしました。富士山に登ったのはその年の8月に入ってすぐのころです。
当時、川崎市の宮前区の鷺沼というところに住んでいて、富士山に行くにはまず東急田園都市線で中央林間に行って小田急線に乗り換えます。相模大野から小田急小田原線に乗って新松田という駅で御殿場線に乗り換えて御殿場まで行けば須走五合目行きのバスが出ています。午前7時発の須走五合目行きの始発のバスに乗ろうと思って夜に出かけたんですが、行く前に結構お酒を飲んでいて、酔っぱらっていたので、田園都市線の下り電車に乗ったものの、気が付いたら上りの終点、水天宮前駅でした。仕方がないので折り返して、やっとのことで中央林間に着いたのですが、小田急線は相模大野行きの最終電車しかありませんでした。相模大野に着いて、どうしようか迷ったのですが、こういう場合、私は行けるところまで歩くことにしています。地図など持っていませんし、今のようにスマホもない時代です。勘と地理的臭覚だけが頼りです。でも、真夜中歩いて、元厚木始発の小田原行きの電車に間に合いました。その後、乗り換えに時間はかかったものの、当初予定していた須走五合目行きの始発のバスに間に合いました。そしていよいよ登山の開始です。
須走五合目から山頂まではユーチューバーの動画を添付しておきますが、最初は樹林帯を歩き、その後、低木帯に代わって、いつしか樹林限界を超えます。あとは滑りやすい砂利と岩の世界です。
七合目が2930m。テレビ番組の企画で、結成間もないアイドルグループのNMB48が、大阪での劇場公演を終えてそのまますぐに夜行バスに乗らされて富士登山させられる動画がアップされていましたが、ちょうど七合目あたりで高山病になるメンバーが出てきます。2500mを超えると高山病になる可能性があるという話は確かのようです。ちなみに、私は頂上まで高山病になることはありませんでした。山頂で、これが高山病かと思ったのは、山頂で歩き回る足が異常に重く感じたことです。頭痛も吐き気も眠気もありませんでした。所要時間は登りが4時間、下りが1時間半です。当時はまだ30歳。体力はあったようです。


富士山で思い出すのは、私が大学を卒業して入った会社の測量部が、入社したころ、静岡大学と大成建設との合同で、直接水準測量とGPS測量で富士山の精密な標高を測るプロジェクトを進めていたことです。富士山の標高は一般的には3776mとされていますが、剣が峰の最高点の標高は平成3年の測量成果(国土地理院)によると3,776.24mです。この「高さ」は昔から何度も測られ、これまで何度も変わってきました。伊能忠敬の測量法は、方位と距離を基本にしたものです。車輪の回転数で距離を測る「量程車」や縄や鎖を用い、時には歩測も用いたようです。方位や角度の測定には象限儀、方位盤という道具が使われました。これに対してシーボルトが用いた測定方法は気圧計を用いた高度測定で、高度が上がるに従って気圧が低くなるという原理を応用したものです。 1828年にシーボルトは弟子の二宮敬作を富士山頂に登らせ、その測定結果から富士山の高さを 約3794.5mと算出しました。明治になると三角測量という測定法が採られます。これは、底辺の距離を経度と緯度から求め、機器を使って、水準点から三角点を仰ぎ見た角度を測定して山の高さを計算します。
ところで、標高という場合、どこからの高さ、例えば標高0mからの高さが問題になりますが、日本での高さの基準は東京湾の海面です。実際には海面は潮の満ち引きなどで変動するため平均値をとり、東京・永田町の国会の前庭にある「日本水準原点」を陸上での基点として使っています。ただ、この平均海水面というものも曲者で、ある場所の地下に重い岩石が集まっていた場合、周囲より重力の値は大きくなり、そして水もそこに引き寄せられます。たとえば湖の中央付近に重い岩石があったなら、その真上で水面は盛り上がります。地球の重力は細かく見ると場所によって異なっており、「水面が盛り上がる」ような現象は世界各地で起こっています。「標高が0m」である点をつなげて面をつくり、その面で地球を覆うと「でこぼこ」した姿に驚くことになるかもしれません。このでこぼこした面のことを「ジオイド」と呼びます。そして、この「ジオイド」が「標高」の基準となり、平均海水面も「ジオイド」による補正が必要です。ただ、その計算方法は?と聞かれても、私も測地や測量の専門家ではないので省略させてください。

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