北海道の思い出(パート2)
高校に入学して、クラブ活動をどうするかを決めるとき、私は安易に
「わざわざ北海道まで来たのだからスキーでもやってみるか?」
と思って、スキー部に入部しました。ただ、スキー部は北海道の学校でありながら母校ではマイナーなクラブで、部員数も少ない上に練習量も知れているとの事。スキー部に入る前にちょっとだけ体験したラグビー部の練習に音を上げていた私にはぴったりでした。そこでさっそく、スキー部の顧問の現代国語の先生にお願いしてスキー部に入れてもらい、先輩を紹介されました。同期でスキー部に入った生徒は何人かいましたが、はじめの頃は確か一人の先輩と2人で広い前庭でストレッチなどして練習していました。ストレッチも身体に無理がかからないように秒数を計りながらゆっくりやるというもので、体に負担はかかりません。
春から夏にかけてのスキー部の練習は基礎体力をつけるだけで、コレと言ってスキーに関係した特別な練習メニューはなかったので、スキー部に入ったという実感はありませんでしたが、来るべき速歩遠足(マラソン大会)に向けて広い学校の周りを何週も走ったことはよく覚えています。学校の敷地を一周すると1kmくらいあったのではなかったのではないでしょうか。そこを何周もぐるぐる走り回ります。
さて、いざスキー部に入ったので、冬のシーズンに備えて道具一式を揃えないといけません。夏休みに帰省した折、大阪のミズノの本店で親に買ってもらいました。
「スキーは初めてですか?」
という店員に
「学校のスキー部に入ったんです。競技スキーをやるらしいので、レース用の硬い板をください」
と言いました。初心者はまずは柔らかい板を買うそうでしたが、私は断固こだわりました。
短い夏休みが終わって函館の寮に帰った私にそのスキー用具一式が届いた。置くところがないので夏は蒸し暑い物置に収納しておきました。
「こんな熱いところに置いておいたら板がよじれるんではないか?」
と、一抹の不安もありましたが、置くところがないので仕方ありません。
夏が終わり、秋を通り越して冬がやってくると、それまで走り込みとストレッチだけやっていたスキー部も本格的な練習ができるようになりました。函館近郊のスキー場としては後年しばしば通うことになる「ニヤマ高原スキー場」や「函館七飯スノーパーク」、「グリーンピア大沼スキー場」がありますが、週に3回、授業が終わった放課後に通うようなスキー場ではありません。
そこで選ばれたのが「函館東山スキー場」です。スキー場と言う割には「函館東山スキー場」はあまりにもお粗末でした。それでも初心者の私にとってはワクワクだったように思います。
放課後、花園町という学校の近所までスキー用具一式持って函館の少年スキークラブの練習に同行しました。相手は小学生で、女の子も混じっています。だからあまり恥ずかしいところを見せたくないのが本音でしたが、「函館東山スキー場」に着いた途端、私が持っていたプライドがズタズタにされてしまいました。
その「函館東山スキー場」に着くと、先ずリフトがありませんでした。今ではめずらしいロープを掴んで斜面を登っていくロープ塔が一本あるだけでした。しかも、ゲレンデは、本物のスキー場がゴルフのコースだとしたら、「函館東山スキー場」は打ちっぱなしのゴルフ練習場のようなものでした。昔、家族旅行で石川県のスキー場に行ってリフトの乗り方なら出来たのですが、ロープ塔は初めてです。とりあえず準備がそろったところで、ロープ塔に挑戦してみました。初めは両手でロープを持ち、渾身の握力を込めて半分くらい登ったところで、途中でギブアップして倒れてしまいました。
ロープ塔は、単純にロープにつかまって斜面を登るというものですが、前の人がこけると後ろの人はぶつからないようにロープを持つ手の握力をちょうどよい加減に調節して、その場に止まっていなければなりません。ロープ塔の乗り方さえマスターすれば以外に容易にゲレンデの上に上がっていくことができます。そのコツというものが、左手をロープの先に持って行って、右手は背中を回して腰のところでギュッと捕まえるのです。たぶん私のロープ塔体験は函館の小学生の笑いのネタになっていることでしょう。
顧問の先生は私がスキー初心者であることが分かっていたのでブーツの履き方からビンディングの取り付け方を懇切丁寧に教えてくれ、ゲレンデに出たらマンツーマンでボーゲンから滑れるように指導してくれました。その間、小学生のスキークラブの子どもたちはポールを立ててスラロームの練習をやっていました。恥ずかしいことは恥ずかしいのですが、あんなにスイスイ滑られないので仕方がありません。
ただ、一つ、スキー部の練習でラッキーだったことは1年生の時の前半の義務自習をサボれたことです。私はどうも義務的にやらされるものは好きではないようです。